マンションもある程度の年月が経過すると、多少はいざこざが発生してしまいます。
 考えてみれば仕方がないです。多様な価値観を持つ居住者たちが同じ敷地内に住み、場合によっては自分の考えと違う管理運営がなされるのですから、いくら民主主義だと説明されたところで釈然としない思いは当然残ります。
 これは、むしろ管理意識が高い人のほうが感じやすいと思います。自宅マンションでは私もそんな感覚を持つ一人でしたから。

 それでもまだ各自が公私の別をわきまえているうちは平穏が保たれるのでしょうが、ちょっとしたことでそのバランスが崩れた時、いざこざに発展するのだと思います。
 いざこざにも段階があって、総会で意見を表明するとか、エントランスで会った時にぎくしゃくする程度なら社会生活の一端と言えるのでしょうが、反対意見の文書をばらまくとか、個人の誹謗中傷を吹聴するとかの段階になればマンションとしても放置できなくなります。

 そして、批判された側が対抗措置という手段に至ったタイミングで名誉棄損だ、として裁判沙汰になることも少なくないわけです。
 名誉棄損というキーワードが出ればもうどちらも戻れません。白黒つくまで訴訟は終わらず、勝ち負けがはっきりする、そんなパターンが一般的です。

 マンション管理センター通信2018年10月号に「マンション管理組合による管理業務と名誉棄損」として、いくつかの裁判例を上げ解説されていましたので、今回は、それを参考に私なりに整理し、記載してみます。

 名誉棄損とは、人の社会的評価を低下させること、と定義できるようですが、この定義に照らしてみれば、名誉棄損は比較的簡単に成立することになります。
事実であっても、それが相手の社会的評価を低下させる内容であれば名誉棄損となるわけです。

 しかし、名誉棄損行為がなされたとしても、それだけで不法行為となるわけではないです。
 その行為が、(1)公共の利害に関する事実に係るものであり、(2)専ら公益を図る目的に出た場合、には違法性が阻却されるようです。
 つまり、管理組合全体の利益が阻害される可能性のある“事実”に基づき対抗手段を取り、その対抗手段が管理組合運営に有益なものであると裁判所に判断された場合は名誉棄損の違法性が退けられることになります。

 やっぱり結構対応が難しいですよね。
 事実であっても名誉棄損は成立するわけで、対抗手段であっても仮に組合員から名誉棄損だ、と主張されてしまえば(管理組合としては)その正当性は裁判所に判断してもらうしかないのですね。

 裁判例では、管理費滞納対応を総会議案にした管理組合の名誉棄損を否定している事案がありましたが、それは組合員が意識的に滞納しているケースでした。
 通常の滞納でも管理組合の利益が阻害され、放置もできないと思うのですが、見せしめとしての議案化(対抗手段)はダメなようです。

 管理組合としても訴訟になるのは手間もストレスも嫌ですから、やっぱり従来通りに地味でコツコツと対応するしか対策がなさそうですね。

(石井孝典)