私的な話ですが、宅建協会が主催する不動産取引の相談員を担当することがあります。
日々実務を行っていますからほとんどの内容はその場でアドバイスできるのですが、苦手かつ頻繁に寄せられる相談として借地権に関するものがあるのです。
借地権は現在の不動産流通ではほとんど利用されませんので、私の場合取り扱うことが皆無と言ってもよいくらいで、当然知識量も少なく、書籍に書いてある一般論のアドバイスしかできていないのが現実です。
実際の相談にしても大昔に設定された借地権の取り扱いに関するものだったり借地権解消に関する相談だったりで、古くて後ろ向きな相談が多い印象です。
そこでマンションについても考えてみたのですが、借地権のマンションは少ないですが、現に存在します。
借地権は地主との信頼関係が築かれ、賃料が正常に支払われた上で日常的に使用している状況では特に何も考えることはないですが、そうでない場合は所有権のマンションと同じようにマンション管理を捉えるわけにはいきません。
例えば大規模修繕や共用部の改修、建て替えなどの場合はどうなるのでしょう。
マンション管理センター通信では3回に渡って、借地権付きマンションの基礎知識というタイトルで弁護士の方が解説していましたので、今回はその記事を参考に、借地権のマンション管理組合が考えなければならない注意点を私の視点でご紹介します。
まずは借地権だからと言って一括りでは考えられないということです。
恐らく現存するマンションには旧借地権、借地借家法に基づく普通借地権、そして定期借地権付きマンションの3パターンが存在します。
その中で比較的新しい定期借地権付きマンションはあまり悩む状況はないでしょう。借地権のあいまいな部分を地主が嫌って定期借地権にしていますので契約書にすべて記載してあるはずです。
次に旧借地権か借地借家法に基づく借地権のどちらに該当するかですが、借地借家法は平成4年8月1日施行となりますので、圧倒的に旧借地権で建築された借地権マンションが多いものと思われます。
借地借家法は比較的新しい法律ですから、例えば建て替えなどに関する規定が整備されており、仮に地主との信頼関係が崩れていたとしても(お金の問題はさて置き)裁判所の手を借りれば建て替えを含め、ほぼ全ての意思が実現できると思います。
問題は旧借地権で建築されたマンションで、特約がない場合には特に問題はないようですが、特約がある場合、大規模修繕(建物の耐用年数を大きく延長させる程度のもの)でさえ管理組合の意思だけでは不可能で(地主の承諾が必要)、建て替えに至っては裁判所の手を借りたとしても可能かどうかは何とも言えない、みたいです。
まとめるならば、借地権のマンションの場合、大きな意思決定時は常に弁護士等法律家の力を借りなければならず、手間も時間もお金もかかるということになります。
所有権のマンションでさえ、これらの大プロジェクト時は合意形成などに苦労するわけですが、借地権のマンションはその上を行くわけです。
うーん、考えるだけでもぞっとします。よほどの好立地でもない限り、底地を管理組合で買い取るか、建物の耐用年数を延ばすことは考えず、土地を素直に地主に返すかが現実的な方向性なのかな、という気がします。
いかがでしょうか。興味のある方はマンション管理センター通信2019年1月号をご覧ください。
(石井孝典)